マッチコラム
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マッチ箱に貼られているマッチラベル商標を印刷する方法として明治初期の頃は、今のデジタル時代から考えると信じられないことをやってのけています。
ひとつの商標柄を刷るのに桜などの堅い木に同一商標柄を何個も連続して同じように彫っていくのです。とは言っても人間の手で彫っていくもの、全く同じには無理としてもその彫職人のスゴ技は現代のテクノロジーの感覚では考えられないテクニック。
大量のマッチ製造に対して果たしてそんな手法で本当に作っていたのか半信半疑でいたところ、某所より、まさにその木版製の版木の実物を手にすることが叶いました。
版木は、原寸作業で寸分違わず同一に彫りあげた板目彫り版木で、並型商標マッチ用4列5段の20面と同柄のダース票大判(並型マッチ12個詰めの袋の表面に貼付け)2面の二つのセット。
商標柄は、「大黒天日本一」木版赤一色刷り商標。
並型版木の版面寸法を計ると縦256×横142mmあり、浮世絵を刷る際の和紙、小奉書の天地3分の1の細判(333×160mm)が刷るにはちょうど良いサイズのようです。
この商標を調べてみると登録申請は果たしてないので正確な製造時期は不明ですが、これに限っては明治後期の小規模のマッチ製造工場のものと推測します。
この版木に赤インキをつけて一枚刷って20個分のマッチラベルが出来上がり、これを一日大量に刷って乾いたら裁断し、人の手で経木のマッチ箱に糊で貼って、最後に側面に赤燐を溶いたものを刷毛で塗ってマッチ箱が完成します。
この版式でいくと、出来上った燐票は文字や図版の形状が正確には20種類ごく微妙に違っています。これが当時のマニアックな燐票コレクターにとっては、ひとつひとつ間違い探しのごとく、何列目、何段目の刷り物と判別しながら全種類を揃えていくことを楽しんでいたといいます。
そもそも、こういった元の版木は摩耗して使用に耐えられなくなったり、商標柄が不要となったら無用のものとして悪用されぬよう、割ってしまうか、薪代わりの焚き付けとして燃やされてしまう運命にあったようで、今ではなかなか見つけるのは困難です。今、見ると連続美を伴った細かい彫刻作品のようで感動的ですが、当時の彫り職人にとってはこれくらいの図版精度はわけもなく仕上げてしまう力量を身につけていました。
大黒天日本一商標のほかにも発見した版木もいくつか紹介いたします。